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on Sep. 2004
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2004.09.11[Sat]
●恐るべしトシ君の潜在能力!

2004年9月発行予定の「OpenAir新聞」からの抜粋です。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 どことなく久保塚洋介に似ているトシ君は自閉症、出会いはキャンプの1ヶ月前だった。
 台風が接近しているため、体験カヌー教室を中止にしようかと思ったが、今回のメンバーは若くてやる気満々、少しでもいいからカヌー体験がしたいと言うので、午前中だけでも実施することにした。雨が降ったなら濡れればいい、ただそれだけのことだ。
 陸上でパドリングの基本講習を行うと、彼はうまくできなかった。陸上トレーニングを早々に切り上げ、カヌーのコックピットに押し込んだ。
 水の上でもパドルの使い方が分からず、包丁のように水をスカッと切ってしまう。当然フネは進まない。丘から5mくらいのところで、カヌー改め無方向性浮遊物の上であたふたしている。
 最後の作戦にかけた。
「松井さん、彼の前を漕いで見本を見せてやって、だめだったら二人艇に乗せて、一緒に漕いでください」
 まあしかたがない、おそらく彼はあまり運動神経がよろしくないのだろう。
 ところがどうだ、5分後に目にした光景に、まつ毛が眉毛にくっつくのではと思うほどまぶたが開き、目玉は一瞬前後に振動し、首が前方に10cmほど伸びて顔面から水面を追った。その向こうには、あのトシ君がスーイスイと、まるで何回もカヌーを経験しているようなパドルさばきで操船しているではないか。
 これが自閉症の人の潜在能力か、あらためてじっくりと驚きながら、どこまでも楽しそうに漕いで行くトシ君を追い続けた。
『トシ君の場合、就職の対象にならないのでは』
 養護学校を卒業するとき、就職課の先生だけでなく、親御さんまでもが悲観的だった。しかし、トシ君は「働きたい」という意思をはっきりと伝えた。
 本人が働きたいと言う以上最善の努力をする、依頼を受けた若竹通勤寮では、佐野さん内田を中心にミーティングを繰り返し、トシ君の就業先探しに翻弄した。
 大手家電メーカーのサンヨー電気は、地元でも最も障がい者雇用に理解のある企業の一つだ。実習生として3ヶ月の受け入れが決まった。
 若竹の支援者グループは、自閉症という障がいの特性と、適応する職種など、福祉の専門家が有する知識を惜しみなく提供し、企業は自閉障がい者受け入れのノウハウを蓄積していった。
 当時、彼は今ほどの言葉を持っていなかった。障がい者雇用に理解の深いサンヨーの担当者でさえ、「言葉の意思疎通にハンデがあって大丈夫だろうか」などの理由から、疑心暗鬼を生じていた。
 実習がはじまった。与えられた仕事に中には、彼の苦手な内容も含まれていた。当日現場に付き添った担当の内田さんは、自閉の人には根気のいる仕事のほうが向いているため、より適正のある電池検査ラインに変更して欲しい訴えた。サンヨーも彼女の意見を尊重し、配属を調整してくれた。
 トシ君は見事に3ヶ月の実習をクリアし、一般就労を勝ち取って、通勤寮から毎日元気に通っている。背景には、自閉障がい者の特性を熟知した支援者の執念ともいえる努力、理解ある企業と柔軟に対応する担当者の存在、そして本人を含めて熱いハートが原動力となったのだろう。
 どんなに才能のある人間でも、適切な教育を受けなければ開花することはない。土佐の漁師に生まれた万次郎は、遭難という悲劇がきっかけでアメリカに渡った。万次郎の才能を見抜いたホィットフィールド船長が、彼を我が子のように可愛がり、個人授業を受けさせると、短期間で英語を習得し、名門バートレット(現在でいう高等学校)を主席で卒業してしまう。
 自閉を含め知的障がいを持つ人は、教育や訓練により思わぬ能力を発揮することがある。
 行政はノーマライゼーションや地域社会との共生をうたっている一方、依然として別学学習を基本とした教育体制と崩さない。多くの人々は、障がい者と直接的に触れ合う機会に乏しく、障がい者は福祉と言う柵の中で、刺激のない生活を余儀なくされている。
 文句を言ったが無視されたので、肩を小突いたら聴覚障害者だった。
 養護学校・授産施設と軌道に乗せられ、潜在能力が埋もれてしまう。
 行政の愚策は、福祉に無知な社会人を産み、障がい者に刺激のない生活を押し付けている。
 障害の有無に関係なく、人間は日常の刺激によって学習し、対応策を習得していく。筆者ははじめてカメムシを見たとき、不幸にも食事中だった。お皿の端に乗った小さな客を箸でポイ!次にご飯を口にした瞬間どんな顔になったか・・・。
 障がいがあるから、できないのではない。経験から習得までのメカニズムやペースが異なり、得意とすることが違っているということだ。このことは、トシ君が見事に証明している。

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